生誕〜信虎追放
甲斐武田氏は新羅三郎義光の流れをく名門で代々甲斐国の守護を務めていた。
太郎は大永元年11月3日、第18代当主・武田信虎の嫡男として生まれる。躑躅ケ崎館そばの要害城で誕生したといわれる。
天文５年（1536）、元服し、将軍足利義晴の偏諱を受け、晴信と名乗る。
父・信虎は武勇に優れ、武田家の名を近隣へと轟かせたが、その振る舞いが粗暴で人徳に欠けるところがあった。
更に信虎は弟・信繁を偏愛し、晴信は疎まれていたという。
父と対立した晴信は重臣等と相談し1541年、姉の嫁いでいた駿河に信虎を追放してし家督を相続した。
信濃平定戦
家中の基盤を固めた晴信は、翌年、信濃に侵攻を始める。
まず高遠頼継と手を結んで諏訪頼重を討ち、その後、旧諏訪領領有をめぐって頼継とも対立。天文14年（1545）には高遠城を攻め、これを滅ぼし、
その勢いにのって南信濃を平定する。
天文16年（1547）には分国法である『甲州法度』を制定。「信玄堤」として知られる治水事業や交通網の整備など、内政面でも大きな実績を上げた。
続いて晴信は、佐久郡の村上義清を攻めるが、天文17年（1548）の上田原の戦い、天文19年（1550）の戸石の戦いと二度に渡り惨敗し、板垣信方や甘利虎泰といった多くの宿老を失った。
この武田勢の衰えに乗じて、天文22年（1553）、小笠原長清が諏訪郡へ侵攻を図ったが、晴信は塩尻峠にこれを破った。 更に配下の真田幸隆が戸石城を攻略。晴信は安曇・筑摩両郡から軍を侵入させた。すると村上方の諸領主は武田方へと寝返り、 義清は、小笠原長時らとともに長尾景虎（のちの上杉謙信）を頼って越後に敗走、信濃平定をほぼ完了した。
川中島の戦いと三国同盟
義清らが頼ってきたことで長尾景虎が川中島へと出陣。以降、武田と上杉は５度に渡りこの地で戦い続けることになる。
晴信は、この上杉との対立に備え、天文23年(1554)、嫡男の義信の室に今川義元の娘を迎え、
また娘を北条氏康の嫡男・北条氏政に嫁がせて、甲相駿三国同盟（善徳寺の会盟）を成立させている。
また、晴信は謀略を持って上杉の切り崩しを図り、更に西上野への侵攻も開始した。
出家して「信玄」と号したのは永禄２年（1559）のことである。
永禄４年（1561）には、最も激しかった第4回川中島の戦いが起こる。 上杉勢13000と武田勢20000はにらみ合いの末、武田方が夜襲を仕掛けんとしたことで激突。 両軍合わせて6千名の死者を出し、武田方では、信玄の弟・信繁を失うなど大きな代償を払ったが、ついに勝敗は決しなかった。
北条氏康との対立
永禄10年（1568）には、徳川家康と図り、桶狭間の戦いで今川義元が討たれて以来、衰運著しい、今川家を攻める。
その結果、駿河を手中に収めたが、三国同盟の一方的破棄を快く思わぬ北条氏康・氏政と対立することになる。
また、この駿河侵攻に先立って、同盟破棄は義に反すると感じた嫡男・義信との対立が表面化し、永禄９年（1567）に義信を廃嫡、幽閉し自害に追い込んでいる。
永禄11年（1569）には関東へ進軍し、北条氏康の籠もる小田原城を包囲する。 小田原の守りは堅くほどなく撤退したが、撤退時に追撃してきた北条氏照・氏邦勢を三増峠に撃破している。
西上の途
慶長17年（1571）に氏康が没すると、それを機に北条と和議を結んだ。
信玄が、上杉や北条との対立している隙に、畿内は風雲児織田信長の手に落ちていた。
しかし、信長は足利義昭と対立し、義昭が放った檄文により周囲を敵に囲まれていた。
慶長18年（1572）、信玄はついに上洛へ向けて軍を発し、遠江に侵入。 徳川方の諸城を陥落させ、12月には三方ケ原の戦いで徳川・織田連合軍を叩きのめし、三河へと進軍した。
巨星墜つ
三河野田城を落し、次は織田本領へ攻め込もうという矢先、信玄は病に倒れ、天正元年（1573）４月12日、甲斐へと引き返す途中、没した。
享年53。
その死因には、労咳（肺結核）、末期癌のほか甲州地方の風土病説などが唱えられている。
その死に際し「三年は喪を秘せ」と遺言した。
